さて今回ご紹介する「般若札(はんにゃふだ)」は、この『大般若経』の力を祈祷によって封じ込めたお札です。一般には祈祷会が終わると、参列者にはその場で霊験あらたかなお札が配られます。慈徳院では、檀信徒の方々には追って配布されます。般若札は、玄関の入り口の少し高い場所に掲げられ、お経のパワーで災厄が家の中に入るのを防ぐ魔除けとして使用されます。
 日本で最初に大般若会が行われたのは八世紀の初めとされています。当時は供養や祈祷といった行事で経典を読誦した時には、どんなお経を何巻・何回誦んだかという目録が作られ、願主の手元に届けられました。これを「巻数(かんじゅ)」といいます。そして巻数には必ず木製のお札が添付されていました。
 ところが江戸時代になると作法が次第に簡略化され、巻数の目録は作らず、お札のみになり、そのお札も木製から紙札へと変わっていったようです。慈徳院も紙札です。
 大般若会はどの様に行われるのか?と思われますが、慈徳院では元旦の零時からお勤めを始めて九時から檀家さんが挨拶に来山されますので、その時にお渡ししています。
寺院によって多少異なりますが、本堂では、「大般若波羅蜜多経」の、全部で六百巻に及ぶ膨大な経典を一巻、一巻、転読するたびに、「大般若波羅蜜多経巻第○○○、唐ノ三蔵法師玄奘奉詔訳」と言って、お経をパラパラと転読して「降伏一切大魔最勝成就」と大声で唱えます。この、「降伏一切大魔最勝成就」とは、「すべての災いや悪を祓いとり除き、人々の願いをかなえて幸せに導いてほしい」という意味で、皆様方一人一人の除災招福を祈っているものです。そして、住職の振鈴(しんれい)の音を合図に、先程までの大声がピタリと止まり、引き続き読経が始まります。全身全霊で声を張り上げていた、般若札はその営みの結晶であり、新しいお札を古いお札と交換すれば、魔除けの効果が更新されるわけです。
 日本には「護符文化」があります。皆さんの身の周りにもきっとお守りやお札が存在しているでしょう。そこに記された文字が呪力を持つものもあれば、仏神やその使者となる動物が描かれて効力を持つものもあります。
 大般若会は正月行事として年始に行われるお寺が多いのですが、皆さんの家に届いた般若札は、菩提寺の住職が檀家さんご家族の一年の健康と平安を願って祈祷した有り難い物です。
 お札には効力があるのか?ないのか?は、貼ってみなければ分かりません。ですが、願いの込められた般若札は、間違いなく禅寺イチオシのお札です。貼ってみた経験のない方は、一度寺で貰って玄関に貼ってみてはいかがでしょうか?


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